左官屋は独立すると稼げる?年収のリアルと失敗しないための準備

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職人として経験を積んできた人の中には、「いずれは独立して自由にやりたい」と考える方も少なくありません。現場での人間関係や給与の頭打ちを感じたとき、独立という選択肢が浮かぶのは自然なことです。そして、多くの人が気になるのが「独立すれば収入は増えるのか」という点ではないでしょうか。


確かに、独立によって仕事の裁量が増え、うまくいけば年収アップも見込めます。ただし、それは同時に、すべてを自分で背負うという意味でもあります。元請けとの交渉、資金繰り、現場管理、クレーム対応など、職人仕事以外の責任も増えていきます。現実には、独立してうまくいく人と、そうでない人がはっきり分かれるのも事実です。


では、独立した左官職人は実際にどれくらいの年収を得ているのか。そして、稼げる人とそうでない人の違いは何なのか。その実態を冷静に掘り下げていきます。




一人親方・法人化、それぞれの年収実態

左官として独立する場合、大きく分けて「一人親方」と「法人化」の2つの働き方があります。それぞれにメリットとリスクがあり、当然ながら収入構造も異なります。


まず一人親方として活動する場合、元請けや工務店から直接仕事を受けるスタイルが主流です。実力や人脈次第では月商60〜80万円に達することもありますが、そこから経費や保険、移動費などを差し引くと、実際の手取りは年収500〜700万円程度になるケースが多いようです。ただし、繁忙期と閑散期の差が激しく、天候や景気によって月収ゼロのリスクも抱えています。


一方、数名の職人を抱える形で法人化した場合は、複数現場を同時に回せるようになり、売上は1000万〜1500万円を超えることもあります。ただし、人件費や管理コスト、事務処理の負担も増えるため、粗利のコントロールが難しくなります。また、社会保険や雇用管理の義務も発生し、経営者としての視点が不可欠になります。


いずれにしても、「手に職があれば独立して自由に稼げる」というのは少し誤解があり、収入を上げるには相応の工夫と覚悟が必要です。次のセクションでは、そのためにどんな準備が欠かせないのかを見ていきます。




独立前に絶対やっておきたい5つのこと

独立を成功させるためには、技術だけでなく準備がすべてと言っても過言ではありません。見切り発車で始めると、仕事が続かずに失敗するケースも少なくないため、以下の5つは最低限押さえておくべき項目です。


まず1つ目は「安定的な取引先の確保」です。元請けや工務店との信頼関係がないまま独立しても、最初の仕事が取れなければ何も始まりません。できれば独立前に、直接声をかけられる現場監督や担当者を2〜3人確保しておくのが理想です。


2つ目は「道具・車両・保険類の整備」です。特に左官仕事は道具の手入れが品質に直結するため、使い慣れた機材を自前でそろえる必要があります。また、損害保険や労災保険への加入は最低限のリスク対策です。


3つ目は「資金準備」。最初の数ヶ月は収入が不安定になることが多いため、最低でも3ヶ月分の生活費+事業資金を用意しておきたいところです。


4つ目は「基本的な経理・請求の知識を身につけること」。会計ソフトの導入や税理士との事前相談が、後々のトラブル回避につながります。


最後に5つ目は「家族との合意」。独立後は拘束時間が読めなくなったり、収入が不安定になる可能性もあります。ライフスタイルや支出計画を事前に家族とすり合わせておくことで、安心してスタートを切ることができます。




どこで差がつく?独立後の明暗を分けるポイント

独立して左官業を始めた人の中には、「想像以上に順調」という人もいれば、「思ったより厳しかった」と早々に撤退する人もいます。その違いは、単に腕の良し悪しではなく、意外なところで分かれているケースが多いです。


まず大きいのは「受注単価の考え方」。単に作業時間や手間で見積もるのではなく、材料費やリスク、移動時間まで含めて適切な価格設定ができる人は、余計な赤字を出しにくく、結果的に利益率が高まります。逆に、仕事を取りたい一心で安値をつけすぎると、収入が伸びず、疲弊してしまうリスクがあります。


次に「受注ルートの多様化」。ひとつの元請けに依存せず、複数の工務店や個人施主から仕事を受けられる体制があれば、急な案件の減少にも柔軟に対応できます。とくにSNSやWebサイト経由での問い合わせがあると、紹介に頼らずに済み、単価交渉もしやすくなります。


また、「人を動かす力」も大きな分かれ道です。現場を一人でこなせる範囲には限界がありますが、応援を呼べる人脈や、外注先との信頼関係がある人は、仕事量を維持しやすくなります。工程管理や段取りを自分で組める人ほど、複数現場をうまく回せる傾向があります。


最後に重要なのが「セルフマネジメント」。納期や天候、体調、資金繰りなど不確実な要素が多い中で、落ち着いて優先順位をつけて動けるかどうか。この力がある人ほど、トラブルがあっても冷静にリカバリーし、信頼を損なうことなく次につなげています。




収入ゼロの月もある?リスクと向き合う視点

独立は自由で夢のある選択肢ですが、決してリスクのない道ではありません。実際に、受注が立て込んでいたはずの現場が急に延期になったり、入金が遅れて資金繰りに困るといったトラブルは、日常茶飯事です。安定した給料をもらえる会社勤めとは異なり、すべてを自分の責任で乗り越える必要があります。


とくに注意したいのが、ケガや病気で現場に出られなくなるリスク。フリーで働く左官職人にとっては、「現場に立てない=収入ゼロ」を意味します。こうした事態に備えて、早いうちから傷害保険や所得補償保険に加入しておくことが重要です。


また、独立後は「働けば働いただけ稼げる」という感覚になりがちですが、体力的にも精神的にも限界はあります。仕事を断る判断、価格交渉をする勇気、休息を取る計画性がなければ、短期間で燃え尽きてしまう危険性もあります。


取引先とのトラブルも無視できません。契約書を交わしていなかったがために支払いが滞った、仕様変更で揉めた、など、ちょっとした油断が損失につながる場面もあります。法的な知識や第三者への相談体制を整えておくことで、こうしたリスクに備えることができます。


だからこそ、独立前には「理想」と同時に「最悪のシナリオ」も想定しておくことが大切です。リスクと向き合うことは、後ろ向きではなく、長く続けるための現実的な戦略なのです。


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独立は「ゴール」ではなく「スタート」

独立して年収を上げるというのは、たしかに魅力的な選択肢です。しかし、それは何もしなくても得られる結果ではありません。準備を怠らず、人との信頼を積み重ね、状況に応じて自分で判断を下していく──そうした一つひとつの積み重ねが、やがて形になるものです。


「独立すれば自由になれる」「稼げるようになる」という言葉だけが一人歩きしがちですが、本当の意味での自由や安定を手に入れるには、それ相応の努力と視野が必要です。焦らず、自分の立ち位置や優先したい価値観と丁寧に向き合うことが、結果として「続けられる独立」につながっていくのではないでしょうか。


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