「左官の仕事で1000万なんて、本当にあるの?」──この疑問、現場で働く多くの人が一度は感じたことがあると思います。汗を流し、手作業で壁を仕上げるこの仕事は、地味ながらも技術が問われる職人業。確かに、一般的な相場で考えると年収1000万はかなり高く、現実離れしているようにも見えます。ただ実際には、全国にはその数字に届いている職人がいるのも事実です。
もちろん、誰でも簡単に到達できるわけではありません。高収入を得ている人たちは、何かしら他の人と違う選択や行動を重ねてきています。大切なのは、「1000万円」という数字そのものよりも、その背景にある働き方や考え方をきちんと知ること。それが、自分のキャリアを考える上でのヒントになるはずです。
この先では、左官職で高収入を実現している人たちの実態や、そうした働き方に共通する特徴を現実的な視点から掘り下げていきます。
実際の相場はどのくらい?左官の平均年収
左官職人の年収は、地域や雇用形態、経験年数によって大きく変わります。一般的な相場としては、20代で年収250万〜350万円、30代で400万円前後、40代以降でようやく500万円に届くかどうか、というのが現場の感覚です。国税庁や厚生労働省の統計を見ても、左官に限らず建設技能職の平均年収は400万〜450万円程度が中心で、1000万円という数字はかなり突出しているといえます。
一方で、一人親方や自営業として活動している左官職人の中には、年収700万〜800万円を安定して稼ぐ人もいます。ただしこれは「粗収入(売上)」であり、そこから道具代、保険料、交通費などの経費が引かれる点には注意が必要です。また、繁忙期と閑散期の差が大きいため、年間通して安定した高収入を維持するには、それなりの段取り力と営業努力が求められます。
さらに、都心部と地方でも単価に差があり、東京や大阪などでは日当2万円以上の現場もありますが、地方では1万2000円前後が一般的。元請けとの関係性や、公共工事か民間かによっても単価は左右されます。
こうした平均的な相場を見ればわかるように、年収1000万円というのは「普通にやっていれば届く」数字ではありません。むしろ、何かしらの工夫や挑戦をしている人がようやく到達できるラインです。では、どういう働き方をすればその領域に近づけるのか。次のセクションでは、実際に稼いでいる人たちの共通点に注目してみましょう。
稼げる人の共通点とは?3つの働き方に注目
年収1000万円を超える左官職人は、単に「腕がいい」だけではありません。共通しているのは、収入の柱を1本に絞らず、複数の稼ぎ方を組み合わせている点です。代表的なパターンは、大きく分けて以下の3つに整理できます。
まず1つ目は、「職長や現場監督としてのキャリアを築く」ケースです。大手の工務店やゼネコンと直接つながり、複数人の職人をまとめながら現場全体を動かす役割を担うことで、単なる作業代以上の収入が発生します。ここでは段取り力や工程管理のスキルが問われ、施工以外の部分でも価値を発揮する必要があります。
2つ目は、「一人親方として元請け化する」ルートです。下請けではなく元請けとして仕事を受け、協力業者や手元を使いながら全体の利益を設計する形です。この場合は、見積書の作成や施主対応、資材調達など経営的な視点が欠かせませんが、そのぶん1件ごとの利益幅も大きくなります。地域によっては口コミや紹介で案件が続くこともあり、安定性を高める工夫が成功を左右します。
3つ目は、「左官以外の技術と組み合わせて多能工化する」スタイルです。例えば、タイル・外構・防水・エクステリアなど、隣接業種の技術を身につけ、複合的に受注することで単価を引き上げます。これにより、「他に頼まなくて済む」というメリットが発注者側に生まれ、継続案件やリピートにつながりやすくなります。
いずれのパターンにも共通するのは、「現場作業の範囲を超えて価値を出している」点です。単に手を動かすだけでなく、全体を見渡す視点と、信頼関係を築く姿勢が結果として収入を引き上げているのです。
何が違う?高収入の人がやっている努力
高収入の左官職人に共通するのは、技術だけで稼いでいるわけではないという点です。確かに丁寧な仕上がりやスピードは基本ですが、それだけでは限界があります。年収1000万円に到達している人たちは、現場外での「見えにくい努力」も欠かしていません。
たとえば、顧客や元請けとの信頼関係を築くために、現場での対応力や報連相を徹底している人が多くいます。多少の手直しが出ても快く対応する、納期よりも早く仕上げる、現場を常に清潔に保つ──こうした姿勢が次の仕事につながり、単価の引き上げや継続受注に結びついているのです。
また、段取り力にも大きな差が出ます。材料の手配や工程管理がしっかりできる人は、無駄な待ち時間が少なく、1日あたりの作業効率が高まります。これはそのまま日当や月収に反映されるため、作業量が同じでも収入に差がつきます。
さらに最近では、SNSやホームページを活用して個人でも集客を行っている職人もいます。施工写真を発信したり、お客さまの声を紹介することで、地域の個人客から直接依頼が来ることも珍しくありません。このように「待ちの姿勢」ではなく、自分から仕事を取りに行く動きが、高収入につながっているのです。
資格の取得も見逃せません。左官技能士や建築施工管理技士などを持っていれば、元請けからの信頼も厚くなり、現場責任者としての仕事が増えることもあります。特に大規模な工事では資格が単価アップの条件になる場合もあるため、長期的に見れば取得する価値は十分あります。
技術力に加えて、こうした積み重ねがあって初めて、1000万円という数字が現実味を帯びてくるのです。
高年収の裏にある「不安定さ」と「責任」
年収1000万円という響きは魅力的ですが、その裏には想像以上の不安定さと責任の重さが潜んでいます。高収入を得ている左官職人の多くは、安定した会社員ではなく、一人親方や小規模事業者として活動しています。つまり、固定給ではなく完全な出来高制。稼げる月もあれば、仕事が途切れがちな時期もある。それが現実です。
たとえば、梅雨や冬場は天候による工期の遅れや中止が発生しやすく、収入が一時的に途絶えることも珍しくありません。大手と直接取引していない限りは、急な予定変更や材料の遅れにも影響されやすく、自分の努力だけではどうにもならない場面も出てきます。また、労災保険や雇用保険といった保障が不十分なまま仕事を続ける人も多く、万が一のケガや病気で収入がゼロになるリスクとも常に隣り合わせです。
さらに、高単価な案件にはそれ相応の責任がついてきます。工程管理や他業種との調整、クレーム対応、現場全体の品質確保など、「左官作業」以外の業務が大きな比重を占めるようになります。ここを甘く見てしまうと、取引先との関係が悪化し、せっかく築いた信頼を失ってしまうことにもなりかねません。
こうしたプレッシャーや責任を受け止めながらも、自分なりのスタイルを確立して、着実に実績を積んでいる人が、高収入を維持しているのです。ただし、そのスタイルは人によって異なり、無理をすれば続きません。何を優先するか、どこまで背負えるかを冷静に見極めることが大切です。
それでも、自分の裁量で働き、技術と人脈で勝負できる環境にやりがいを感じている職人は多くいます。だからこそ、こうした現実も知った上で、自分の将来像を具体的に描いていくことが必要なのです。
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「稼ぐ力」は目指せる。ただし焦らず、現実を見て
左官の仕事で年収1000万円を目指すことは、たしかに可能です。ただし、それは決して簡単な道ではありません。技術だけでなく、信頼関係の構築、段取りの工夫、そして独立に伴うリスク管理まで、あらゆる要素を地道に積み上げていく必要があります。目先の数字にとらわれるのではなく、自分に合った働き方や価値観をじっくり見極めることが、長く続けるうえでは何より大切です。
まずは目の前の現場で信頼を積み重ねること。そのうえで、必要な資格や知識を身につけていけば、自然と収入の道も広がっていきます。高年収はゴールではなく、その過程で育まれる姿勢や実力の結果としてついてくるもの。焦らず、自分のペースでキャリアを築いていってください。
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